星の瞬く澄んだ夜空へようこそ

尾瀬や檜枝岐で宿泊される人の多くが夜空に驚かれます。都市部ではまず観ることができなくなった天の川が空に架かり、輝く星明かりで影ができるほど。
このスペシャルコンテンツでは、尾瀬や檜枝岐で撮影した星空写真をお見せしながら、尾瀬だから見える天体をピックアップし、それぞれの天体の驚きエピソードを夜空を旅するようにご案内します。

ひのえまたの星空
見晴地区の星空( 8月下旬 深夜2時頃)
弥四郎小屋と天の川
弥四郎小屋と天の川( 8月下旬 21時頃)

尾瀬と檜枝岐はなぜ星がよく⾒えるのか

首都圏などの都市部では、街の明かりが空気中の水分や塵によって拡散されて不必要に明るい夜空が形成されます。星の光は弱い光です。明るい夜空の中ではかき消されてしまいます。
その点、檜枝岐村が含まれる尾瀬国立公園エリアは福島県南会津地方の最奥部に位置するため、どの方角の都市部からも十分な距離があります。その上、四方が山に囲まれているので上空に拡散した街明かりが遮られます。こうした理由から星空のほのかな光が地表に届くのです。

尾瀬の星空

尾瀬沼と燧ヶ岳を見下ろすような見事な天の川

尾瀬沼と燧ヶ岳を見下ろすような見事な天の川。( 8月上旬 深夜2時頃)

尾瀬は1,400~1,700mと標高が高いため空気が澄んでいます。しかも山岳地帯でありながら、尾瀬ヶ原や尾瀬沼といった空の開けたエリアがあり、絶好の星空スポットです。
尾瀬には徒歩でしか入山できないため、大型の機材を持ち込むのは現実的ではありません。尾瀬沼ビジターセンターでは天体望遠鏡を使った星空観賞会を頻繁に開催しているのでそちらをご利用ください。
尾瀬で星空を見るためには基本的に山小屋かキャンプ場に泊まっていただく必要があります。夏の尾瀬は昼と夜の寒暖差が激しいため、夜霧が発生しやすくなりますが、気象状況によっては霧が夜半前に上がることもあるので、諦めず目当ての時間まで仮眠するのも手です。

尾瀬ヶ原の頭上、至仏山にかかる天の川
尾瀬ヶ原の頭上、至仏山にかかる天の川。( 8月下旬 20時頃)

2万5千光年先から届く光、届かない光

地球から見える星々のほとんどは銀河系に所属します。たとえば夏の天の川は私たちの太陽系が所属する銀河系の中心部が夜空に映った姿です。太陽系から銀河系の中心部まで距離にして2万5千光年。単純に言えば2万5千年前の光を私たちは眺めていることになります。
一方、天の川には暗い部分があります。この暗黒帯に恒星がないわけではありません。銀河全体を構成しているのはガスや微細な塵(ちり)などの星間物質です。この星間物質の密度が高くなると恒星の光を遮ってしまう「暗黒星雲」の宙域ができます。この密度の高い暗黒星雲域で何らかの力が加わると、星間物質は加速度的に密度を高めて、やがて恒星などの星になると考えられています。

夏の天の川

銀河系と衝突するアンドロメダ銀河

私たちの銀河系(天の川銀河)はいくつもの他の銀河と銀河団を形成しています。この集まりの中でいちばん大きいのがアンドロメダ銀河です。直径は約22万光年で私たちの銀河系の2倍の大きさがあると考えられています。
アンドロメダ銀河は肉眼で見える最も遠い天体です。アンドロメダ銀河は太陽系から約240万光年も離れていますが、互いの引力によって秒速122kmの速さで近づいているため、約40億年後には私たちの銀河系と衝突すると考えられています。

アンドロメダ銀河
アンドロメダ銀河

檜枝岐の星空

星空は檜枝岐村の村域でも十分に観賞できます。むしろ一般的な天体観測なら檜枝岐村内が適しています。村内のいくつかの駐車場は、国道352号の冬季通行止め期間を除けば、夜間のマイカー乗り入れが可能です。登山の前後などで気軽に星空を眺めるのはもちろん、天体望遠鏡や赤道儀など大型の機材を利用した本格的な天体観測に村営駐車場をご利用ください。

檜枝岐村内の村営駐車場

御池(みいけ)駐車場 標高: 約1,500m
冬季通行止め: 11月末〜4月末
料金: 1,000円(閉山期間は無料)
トイレ有り(冬季使用不可)
七入(なないり)駐車場
七入(なないり)駐車場 標高: 約1,070m
冬季通行止め: 1月中旬〜4月中旬
料金: 無料
トイレ無し
ミニ尾瀬公園駐車場
ミニ尾瀬公園駐車場 標高: 約970m
冬季通行止め: なし
料金: 無料
トイレ有り(冬季使用不可)

11月から3月の檜枝岐村でぜひ見たい天体

冬季の檜枝岐村でぜひご覧いただきたい天体があります。すばる(プレアデス星団)とオリオン大星雲です。この2つの天体は都市部でも肉眼で見ることができますが、檜枝岐村内で見るとその鮮明さがひと味もふた味も違います。

御池駐車場( 11月上旬 23時頃 御池駐車場)
御池駐車場( 11月上旬 23時頃 御池駐車場)

すばる(プレアデス星団)

すばる(プレアデス星団)

冬の夜空を告げる小さく群れた6つほどの星の集まりを見たことがあるでしょうか。これが「すばる」です。すばるは星の集まりにつけられた名前です。欧米ではプレアデス星団と呼ばれています。
すばるを双眼鏡などで観察すると青白い星が多いことに気がつきます。青白い星は高温で寿命が短いのが特徴です。すばるの寿命は約6000万年から1億年と考えられ、約47億年前に誕生した太陽と比べるとだいぶ若い星々ということがわかります。
プレアデス星団の核融合の反応速度は早く、数千万年程度で燃え尽きると考えられています。

オリオン大星雲

オリオン大星雲

オリオン座の小三つ星の下に小さくぼおっと輝く天体があります。オリオン大星雲です。
オリオン大星雲のような散光星雲は、ガスや塵でできた星間雲が、内部にある高温の明るい星の光を受けて輝いています。
天の川の暗黒星雲で書きましたが、星間雲を構成する星間物質は星の材料となります。太陽系との間の星間雲の厚みが大きければ暗黒星雲となり、薄ければ散光星雲に見えると考えられています。

便利な観賞アイテム

星空観賞はさまざまなジャンルがあります。季節の星座や流星群のような時候的な観賞、彗星や月食など季節を超えた周期的な天体イベント、星空撮影。そのなかであると便利なアイテムをご紹介します。

いちばん便利でマストな道具は、ある意味クルマです。他の観賞者がいる場合は、迷惑にならないようにエンジンを切るか、やむえずアイドリングする場合はライトをオフにしてください。

星座アプリと赤色LEDライト

一昔前までは天体観測といえば星空の地図である星座早見盤が便利でした。現在はスマホのGPS機能と連動した星座アプリがリリースされています。スマホを空にかざすだけで目当ての天体が見つけやすくなります。
また暗い観賞地で明かりが必要なときは赤色LEDがついた懐中電灯やヘッドライトが便利です。赤い光は暗闇に慣れた目(瞳孔が開いた状態)にも刺激が少ないのが特徴。周囲の人にも迷惑がかかりません。

星座アプリと赤色LEDライト

7倍・35mm以上の双眼鏡

双眼鏡は星空観賞において万能なアイテムです。天体望遠鏡よりも手軽に使えて、持ち運びが良く、肉眼で見えない天体の姿を見せてくれます。
双眼鏡選びのポイントは倍率と対物レンズの口径です。星空観賞であれば7〜10倍、口径は35mm以上をお勧めします。低倍率すぎると肉眼と対して変わらず、高倍率すぎると天体の発見が難しくなります。また対物レンズは口径が大きいほど光量を集められます。昼間は小口径で問題ありませんが、夜空はある程度の光量がないと天体が暗くなります。もちろん口径が大きくなると重量が増えるのでバランスを考えるのが重要です。

星座アプリと赤色LEDライト

星空は自然環境のバロメーター

尾瀬と檜枝岐の星空ツアーはいかがでしたか。都市部では見えない星空にきっと満足していただけたはずです。
星がたくさん見える夜空とは街明かりが少ない夜空です。必要以上の街明かりは、植物の生育や動物の行動に少なくない影響を与えます。実際、この数十年で走光性の強い昆虫が大きく数を減らしているという研究結果があります。言うまでもなく昆虫は自然界の重要なタンパク源です。生物量ピラミッドのバランスが崩れると生態に大きな影響があります。
また街明かりのエネルギー源の多くは化石燃料による発電に依存しています。地球温暖化を緩和し、また地球温暖化する環境に適応して生きていくために、私たちはたくさんの星が見える夜空を取り戻すべきと言えるでしょう。
その時、この尾瀬の美しい星空は、きっとあなたが目指す星空のマイルストーンになるはずです。

尾瀬沼ヒュッテの前庭から燧ヶ岳方面の空を撮影。前庭はデッキが敷かれてベンチやテーブルがあるため、尾瀬の星空観賞に使いやすい山小屋といえます。( 8月上旬 深夜0時頃)